地域密着型栄養サポートチーム
栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)とは
低栄養やその危険を有する患者さまに対して、専門的な評価に基づき最新の知識・技術を動員して栄養支援を行うために多職種で構成されたチームをいいます。
当院では、入院、介護施設及び自宅の全ての療養環境を通じて、充実した切れ目ないサポートを提供するため、3つの環境それぞれに対応したチームを設けています。病院、併設介護施設そして在宅の各NSTは、中核となるメンバーを共有しますが、彼らがリーダーシップを発揮して、管理の一貫性と継続性を担保し、3チーム全体をまとめ連携・協働を進めています。3つのNSTを合わせて地域NSTと捉え、地域全体を活動フィールドとしています。
理念と方針を紹介します。
基本理念
院内さらに地域において、チーム皆の協力のもと、食と栄養の向上を通じて健康と治療に貢献するとともに、明るい生活を支えるよう努力します。
活動方針
- 積極性
低栄養の徴候、栄養上のリスクがあれば、予防の姿勢で積極的に対応します。 - チームワーク
お互いが職業倫理の鏡と思い、話しやすい相談しやすい仲間として協力します。 - 人間愛とあたたかさ
患者さまとご家族に寄り添い、感情を共有するよう努めます。 - 研修と教育
教え教えられる関係を作り、全国にむけてこつこつレベルアップします。 - 地域社会への貢献
地域医療を担う者として地域社会に貢献する高い意識を持ちます。
ここ尾道市御調町において、高齢化率は31.4%、後期高齢者の割合は18.8%(平成20年4月)であり、高齢化を背景に介護が必要な方を中心として栄養面の懸念があります。当院では、入院患者さまの半数近くが低栄養状態、4割程度が寝たきり状態にあるので、褥瘡予防の点からも栄養支援の取り組みの意義が高くなっています。一方、疾患や加齢により摂食・嚥下機能が低下したケースは院内・介護施設はもちろん、在宅においても目立つようになっており、これらの領域をカバーする専門職種の役割が院外に広がっています。
また、当院の基本理念である地域包括ケアシステムにより、患者ニーズの時々の変化に対して医療・ケア及び療養環境提供の面で迅速・機敏な対応が可能となっています。また、行政との連携のもと住民の健康増進と疾病・介護予防を主導的に推進しており、地域づくりの一端を担うと言えるでしょう。
こうした背景に加え、食べることは健康並びに生活の基盤であるとの強い認識のもと、栄養サポートの合言葉を地域包括ケアシステム全体に響かせ、各部門の機能を存分に活用することを病院の方針として定めています。もともと院内活動として培われた“食と栄養をチームで支える精神”は、院外から地域に広がり、地域住民の皆様のために実践されようとしています。
NSTのあゆみ
| 平成14年6月 | 病院NST準備委員会設置、病院NST発足 |
|---|---|
| 平成15年6月 | 病院NST稼働 |
| 平成16年5月 | 併設介護施設NST準備委員会設置、併設介護施設NST稼働 |
| 平成19年2月 | 在宅NST準備委員会 |
| 平成19年4月 | 在宅NST稼働 |
| 平成21年2月 | 第1回在宅NST勉強会開催 |
| 平成21年8月 | 第2回同勉強会開催 |
| 平成22年3月 | 第3回同勉強会開催 |
地域NSTとは
地域包括ケアシステムの代表的な機能単位である急性期病院、介護施設、在宅ケア部門において、それぞれにNSTを構成し、これらが連携することにより切れ目のない栄養サポートを提供します。
地域に広く目を届かせ、患者さまの身体的要因のみならず、独居、老老介護といった社会的要因による栄養上のリスクにも対応するよう努めます。
地域の皆様に関わる際に、常に長期ケアを念頭に置き、皆様が出来る限り長期間に口から食べる楽しみ・喜びを感じて頂けることを目標とします。
地域NSTのメンバー構成
| 医師5名 | 院長、副院長、外科部長、歯科部長、外科医長 |
|---|---|
| 看護師40名 | 病院、保健福祉総合施設、訪問看護ステーション |
| 薬剤師2名 | 病院、地域医療部 |
| 管理栄養士11名 | 病院、保健福祉総合施設、保健福祉センター |
| 歯科衛生士4名 | 病院、保健福祉総合施設 |
| 言語聴覚士9名 | 病院、保健福祉総合施設 |
| 保健師9名 | 保健福祉センター、訪問看護ステーション、地域包括支援センター |
| ケアマネジャー5名 | ケアプランセンターふれあい、尾道市北部地域包括支援センター |
| ホームヘルパー2名 | ホームヘルパーステーション |
病院NSTの活動と特徴
介入のタイミング
NST回診の際に、血清アルブミン値3.0g/dl以下の症例をリストアップし、病棟単位でアルブミン値の経過を一覧表にして準備します。まずは介入症例について管理計画書を参考に検討しますが、症例検討の後、この一覧表を参考に新規事例を掘り起こします。また、経口摂取可能な高齢の整形外科手術例では術直後から自動的に介入することとしています。とかく遅れがちな介入開始の問題点を皆で認識し、良いシステムづくりで解決するよう取り組んでいます。
咀嚼・嚥下を特に大切に
回診には歯科衛生士と言語聴覚士が必ず参加し、摂食・嚥下機能への関わりを綿密としています。また、当然のことながら“早期PEG→経口移行のためのリハビリ”にも関与しています。他の職種にとって、事例を通じた知識と経験が増えるほど、咀嚼・嚥下の重要さが実感されます。
退院後の療養環境を念頭に
介入当初から退院後の療養環境を考慮した計画立案に心掛けます。また、地域連携室への連絡ノートを準備して、回診で挙がった課題に迅速に対処するよう工夫しています。“病気が治り栄養が少しよくなったら退院でおしまい”ではありません。在宅管理と中間施設での介入も念頭におき、入院中に出来ることを整理する。この姿勢は地域包括ケアの理念の実践に非常に大切と考えます。
じっくり対応
在宅復帰を目標に、NSTの看護師は勿論、管理栄養士そして関連職種は、ベッドサイドを基本と捉え、患者さまそしてご家族と何度も話し合います。管理方針を在宅につなげるために、好み、食材や調理の条件など、食生活のことにはきめ細かく対応します。また、自宅訪問の実施や訪問看護ステーションとの連携は重要であり、実際に自宅訪問することで、関わるスタッフの新たな学びに繋がります。
会議や院内勉強会の工夫
不明確な職種間の役割分担、関連書類の多さと煩雑さ、スタッフのモチベーションといった職域チーム内にありがちな問題を抱えています。細かな課題についても、多職種合同のグループ討議で意見交換し、業務改善を進めています。たとえ経験の浅い人でもしっかり意見が言えるような雰囲気づくりに努めています。勉強会においては、モデル事例の検討を小グループで行うなどして、テーマに応じて聴講型に参加型の要素を加え、新たな学習意欲を刺激するとともに職種間の交流を広げています。
活動実績
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併設介護施設NST(保健福祉総合施設NST)
病院でのNST介入者の多くが改善不十分な状態で介護施設に入所します。そのため、併設介護施設(施設群を構成しており保健福祉総合施設と称す)においてNSTを稼働し、病院と同じ方針で管理を継続します。
管理栄養士を中心として、薬剤師、看護師、介護職員、歯科衛生士及び言語聴覚士が含まれ、低栄養の改善はもちろん、口から食べる楽しみを取り戻せるよう取り組んでいます。経口摂取の安全を高めるために、専門的な嚥下機能評価を定期的に実施しています。4年間で16人の方が、経管栄養から経口摂取に移行しました。
介護保険制度上の栄養ケア・マネジメント導入後は、本人、家族の栄養に関する希望を取り入れた計画に基づき、全入所者に対して適切なサービスを提供しています。NSTは栄養ケアプランの作成、実施の評価並びに計画の見直しに関与しています。
これらの取り組みを通じて、介護職員やリハビリスタッフに栄養の重要性が浸透し、ケア全般の質の向上に貢献しています。
また、退所後の継続管理が必要な方には、ご家族や次の施設に対して定まった様式で情報提供を行います。
活動実績
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在宅NST
患者さまの生活に寄り添いそのケアのあり方をライフスパンで捉えるよう努めます。在宅での計画を個人の栄養ケアの基本とし、地域NSTを挙げて検討に取り組みます。特に入退院の頻繁なケースでは、入院の間に、NSTが在宅ケアスタッフと協力し基本計画をきめ細かく修正します。
月1回の在宅NST会議は既存の在宅ケアスタッフの会議に病院NSTのメンバーがお邪魔する形で行われます。病院NST医師(責任者)、歯科医師、薬剤師(一人が3つのNSTに関与)、看護師(訪問看護ステーション、病院、併設介護施設)、ホームヘルパー、ケアマネジャー、保健師、管理栄養士、歯科衛生士及び言語聴覚士が参加します。
在宅用の管理計画書には、基本情報や身体計測値だけでなく、食事内容や嚥下、口腔の状態をチェック方式で簡単にアセスメントできるよう工夫しています。本人、家族の希望を中心に計画を考え、評価の際にも、スタッフだけでなく家族の評価も大切にしています。必要に応じて、NST医師が自宅訪問を行い、直接、本人や家族の状況を把握し対応します。
当院歯科医師と歯科衛生士による訪問診療は以前から積極的に行われていましたが、在宅NSTでの情報共有により口腔ケアの取り組みがさらに充実しています。
地域住民も在宅NSTの一員と捉え、独居高齢者、老老介護など社会的要因による低栄養リスクにも介入ができるよう、食生活改善グループといったボランティア並びに民生委員の方々と連携を図っています。また、低栄養の問題と支援の必要性を地域に啓発するため、在宅NST勉強会を企画し、住民の皆様のご参加を得ています。
活動実績
症例検討
| 症例検討件数 | 約15件/月 |
|---|---|
| 対象症例の特徴 | 嚥下・口腔機能障害(飲み込みの問題)を有する症例 経管栄養のトラブル症例 在宅スタッフが栄養に関して心配する症例 病院NSTからの引継ぎ症例 |
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在宅NST勉強会
当院ではNSTを核として摂食機能の向上に力を注いでおり、『口から楽しむ』栄養の維持や回復を目指します。そのため、急性期、回復期及び維持期をはじめあらゆる療養状況下で支援に取り組んでいます。在宅NSTにおいて、在宅ケア最前線のスタッフが病院NSTと協力して、在宅療養における栄養の維持向上に努めています。
周辺地域のケアスタッフの皆様との連携を深め、さらに広く住民の方への啓蒙を図るため在宅NST勉強会を企画し、現在まで3度開催致しました。お陰様で参加者皆様から好評を得ており、年間に2~3回の頻度で今後も継続する方針です。食や栄養に特に興味をお持ちの方、日頃の在宅介護にお悩みの方は、是非ご参加下さい。お待ちしております。
第1回 テーマ《認知症のある方に在宅で経管栄養するために》
| 参加者 | 86名 |
|---|---|
| 参加施設 | 22施設 |
| 研修内容 | 『当院NST(病院NST、施設NST、在宅NST)の紹介』 担当:NST医師 『半固形化・固形化栄養法(実技)』担当:看護師 |
第2回 テーマ《噛む・飲み込むを保ち、おいしく食べて長生きしよう》
| 参加者 | 90名 |
|---|---|
| 参加施設 | 23施設 |
| 研修内容 | 『飲み込みと生きがい』担当:言語聴覚士 『やさしい口腔ケア』担当:歯科衛生士 グループワーク(嚥下障害のある症例を在宅で支援するためについて) |
第3回 テーマ《在宅NSTのこと、もっと詳しく知りたい》
| 参加者 | 87名(うち地域住民:33名) |
|---|---|
| 参加施設 | 21施設 |
| 研修内容 | 『在宅NSTの取り組み』担当:医師 『在宅NST会議の紹介』 |
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スタッフの声
NST専門療法士になったきっかけ、今後の抱負
NSTで活動していく中で、より専門的な知識を身に付けサポートできるようになりたいと思ったことと、身近な先輩専門療法士の活躍にも刺激を受けました。いろいろな勉強会(合宿)や何度も練習問題を解き、専門療法士試験に合格することができました。
住み慣れた地域で元気で生活していただけるよう、みなさまに寄り添ったサポートができる努力をしていきます。「栄養のプロフェッショナル!」と言われるようになりたいです。
(平成21年NST専門療法士取得 管理栄養士)
NST活動で思うこと
患者さまの嬉しそうな顔や感謝の言葉を聞くことができた時、関りがもてて良かったと思います。先輩や他職種の意見を聞きながら、退院後の生活も視野に入れた関わりができるようになりたいです。日々勉強に励んでいきます。
(NST3年目 管理栄養士)
難渋するケースもありますが、患者さまが良くなっていかれるのでやりがいがあります。いろいろな職種の方と話ができるため自分自身の視野が広がりました。今後も専門性をもって関ることはもちろん、栄養に関する知識も増やしていきたいです。
(NST4年目 言語聴覚士)
病院だけでなく地域においてもNST活動が必要であると、勉強会に参加し理解しました。病院でのNST活動においても患者さまの病状だけでなく、生活背景の把握も重要であると感じています。他職種の意見を聞きながら勉強していきたいです。
(NST3年目 看護師)
ひとりの患者さまの疾患や検査データ、栄養面の影響を与える様々な要素に着目することが重要であると、NST活動を通じて経験しました。看護師として普段から患者さまの疾患から栄養面、生活の場まで考えることができる看護師になりたいです。
(NST2年目 看護師)

認定・資格
- 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)NST稼動施設
- 日本栄養療法推進協議会(JCNT)NST稼動施設
- 栄養サポートチーム加算施設(病院)
- TNT(Total nutritional therapy)プロジェクト認定医師
副院長:沖田光昭
外科部長:菅原由至
歯科部長:占部秀徳
外科医長:大久保仁 - 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN) 評議員
薬剤師:増田修三 - 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN) NST専門療法士
薬剤師:増田修三
看護師:大河智恵美、林和美
管理栄養士:濱田一予、畠由香
臨床検査技師:高瀬圭一
教育・研修
学会発表
栄養支援の地域連携促進のための施設横断グループ・ワーク
菅原 由至 ほか
第25回日本静脈経腸栄養学会 年会
地域包括ケアシステムを基盤とした栄養サポートシステムの構築
~老人保健施設NST稼動後4年目の課題~
増田 修三 ほか
第25回日本静脈経腸栄養学会 年会
シンポジウム「継続医療と地域一体型NST」
地域包括ケアシステムを基盤とした在宅NSTの活動
岡 美由樹 ほか
第25回日本静脈経腸栄養学会 年会
地域包括ケアシステムを基盤とした慢性閉塞性肺疾患への継続的栄養管理
大河 智恵美 ほか
第25回日本静脈経腸栄養学会 年会
在宅支援地域連携における言語聴覚士の役割
鎌谷 理絵 ほか
第25回日本静脈経腸栄養学会 年会
学術論文
Development of Clinical Application for a Nutritional Prescription Support System for Total Parenteral/Enteral Nutrition
Shuzo Masuda et al
YAKUGAKU ZASSHI Vol. 129, No. 9 1077-1086 (2009)




















