医療関係者のかたへ 地域医療をもっともっと良くしよう

臨床研修について―指導医からのメッセージ―

外科医師 菅原 由至(平成3年大学卒)

“気骨ある船長”

菅原先生来る大衆長寿社会にとって最も期待されるのは誰か?それは、医療社会の海原にいわば一艘の手漕ぎ舟で挑もうとする、勇気あるあなたです。『なんかフワフワしてすごく不安だけど、取りあえず、出航』。滑り出しは、誰にとっても迷走と遠廻りが覚悟の航海です。それでも、5年が過ぎると舵取る姿はなんとなく様になり、そして、10年も経つ頃、あなたは自分の船に把握しきれないほどの数の“助けを求める生命”を預かっているかも知れません。皆に『まっすぐ進め』と急き立てられながら。そのとき、櫂を操るあなたの逞しい腕、そして卓越した方向感覚は、地域社会の沈没を防ぐためにもあるのです。

かく言う僕の研修医時代、汗と血と糞尿にまみれ、『ワシって、やっていけるんか』と何度も自答したことを思い出します。ほんと、辛かったなあ。その後も、外科は良い結果ばかりじゃないので、冷や汗を100リットルくらいかいてきましたが、結局沈没していない。知識と技術なんかよりも、ヤバい時の粘り強さとか逃げない姿勢、でしょうか。嵐のなかの“船長の気概”みたいな感じでしょうか。大先輩の背中から自然に教わった、これは正直な気持ちです。

こんな気概、もちろん、一朝一夕に宿りません。知識と技術のうえに自信を貯めて、それを肥やしに芽吹いてくるものでしょう。でも、苦労が要るとはいえ、冷や汗は少な目に越したことない。

実戦的プライマリケアのためのサイエンスとアート、まずは1年目に、じっくりと取り組みましょう。あなたの力、やる気、疑問そして心配や試練に、マンツーマンに向きあいながら、研修手帳に自信を貯めて行きましょう。そして、2年目には、地域に飛び出してみる。在宅患者さんのベッドサイドに腰掛けて、その目線で医者や医療や病院の役割を考える。そしてあなたに何ができるか。患者さんの笑顔。彼らの感謝や期待が肥やしに注がれる。すると、あの気概の芽が育ってくるよ。

歯科医師 手島 渉(平成3年大学卒)

“聞け、ナマの声”

手島先生「医の倫理綱領(日本医師会)」の第一項目に、「医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、その進歩・発展に尽くす。」とあります。研修医といえども医師としての責任は、患者さまからみれば同じです。経験が浅いから大目に見てもらえる、という職業ではありません。進歩の著しい医療界にあって、年々学ばなければならない量が増えることに同情はします。私も、歯科という限られた分野ではありますが、常に新しい情報を仕入れ、学習し、時代についていくのが精一杯な時もあります。特に、地域医療においては、幅広い知識が必要だと思います。それに加えて、限られた人的資源や物的資源しかない中で、どういった医療サービスが提供でき、その結果、どれだけ患者さまに満足いただけるか、ということを常に考える必要があります。

少し古いデータになりますが、2000年に発表されたWHOの医療保健サービス到達度調査の総合評価で、日本は世界の中で堂々の1位に輝いています。健康到達度、医療保険の公平性、人権の尊重と配慮、などといった項目について調べられたものです。医療界としては誇ることができるものです。しかし、2006年に某研究所が、先進5カ国に医療満足度調査を行った結果、「満足」と答えた割合は、米、英、独、仏では軒並み60%を超えているのに対し、日本だけが40数%にとどまり、ダントツの最下位でした。満足している内容も、他の国では「治療技術」が一番に挙げられているのに対し、日本では「アクセスのしやすさ」ということでした。医療サービスとは一体何でしょう。色々考えさせられます。これ以上言及すると少し情けなくなるので、話題をかえましょう。

研修医の方々が、保健福祉総合施設で研修を受けられる際、歯科の訪問診療を見ていただくことがあります。その時、「将来、何科に進まれますか?」とお尋ねしますが、思いのほか、外科、小児科、産婦人科、精神科といった、最近医師不足と騒がれている診療科を目指されている方が多いことに驚かされます。その点では、日本の医療も大丈夫なのでは・・・と思います。一方で、家庭医やジェネラリストと答えられた方がいなかったことに(そういえば、一人だけ、田舎で仕事したい、という方がいらっしゃいましたが)、日本の医学教育の問題点があるのかな、と考えます。10年先のことは、わかりませんし(私も10年前には、みつぎ病院で働くなど夢にも思っていませんでしたから・・・)、研修医の方々も、肌で地域包括医療・ケアシステムに触れることによって、意外な将来に繋がるかもしれません。

指導医と研修医の関係は、大学のように、教官と学生という立場ではありません。経験を積んだ先輩が後輩の手本となる、というのが理想だと思います。どんどん尋ねて下さい。特に機嫌がよさそうだと思ったら(←ここが大事です)、失敗例を聞いてみて下さい。失敗例はなかなか公表出来ないものです。時効になった症例なら、話してくれると思います。教科書にないナマの声は、ここにあります。先輩と同じ失敗を繰り返し、悩んでいたら、いつまでたっても先輩に追い付けません。「若さ」「情熱」「パワー」こそ、研修医の持つ特権です。ドンドン先輩を押しまくってみてはいかがでしょう。

思いつくままに書いてみました。では、皆さんに会えるのを楽しみにしています。

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