“気骨ある船長”

来る大衆長寿社会にとって最も期待されるのは誰か?それは、医療社会の海原にいわば一艘の手漕ぎ舟で挑もうとする、勇気あるあなたです。『なんかフワフワしてすごく不安だけど、取りあえず、出航』。滑り出しは、誰にとっても迷走と遠廻りが覚悟の航海です。それでも、5年が過ぎると舵取る姿はなんとなく様になり、そして、10年も経つ頃、あなたは自分の船に把握しきれないほどの数の“助けを求める生命”を預かっているかも知れません。皆に『まっすぐ進め』と急き立てられながら。そのとき、櫂を操るあなたの逞しい腕、そして卓越した方向感覚は、地域社会の沈没を防ぐためにもあるのです。

かく言う僕の研修医時代、汗と血と糞尿にまみれ、『ワシって、やっていけるんか』と何度も自答したことを思い出します。ほんと、辛かったなあ。その後も、外科は良い結果ばかりじゃないので、冷や汗を100リットルくらいかいてきましたが、結局沈没していない。知識と技術なんかよりも、ヤバい時の粘り強さとか逃げない姿勢、でしょうか。嵐のなかの“船長の気概”みたいな感じでしょうか。大先輩の背中から自然に教わった、これは正直な気持ちです。

こんな気概、もちろん、一朝一夕に宿りません。知識と技術のうえに自信を貯めて、それを肥やしに芽吹いてくるものでしょう。でも、苦労が要るとはいえ、冷や汗は少な目に越したことない。

実戦的プライマリケアのためのサイエンスとアート、まずは1年目に、じっくりと取り組みましょう。あなたの力、やる気、疑問そして心配や試練に、マンツーマンに向きあいながら、研修手帳に自信を貯めて行きましょう。そして、2年目には、地域に飛び出してみる。在宅患者さんのベッドサイドに腰掛けて、その目線で医者や医療や病院の役割を考える。そしてあなたに何ができるか。患者さんの笑顔。彼らの感謝や期待が肥やしに注がれる。すると、あの気概の芽が育ってくるよ。

副院長 兼 診療部長 兼 外科部長  菅原 由至(平成3年大学卒)